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【活躍する卒業生の紹介】〜サラリーマンからの再挑戦〜松本務様(製菓衛生師科2001年卒 兵庫県立明石南高等学校出身)

今回はパン業界で20年以上活躍されている卒業生の松本様にインタビューを行いました。パンに対する思いやこれからこの業界を目指す若者へのエールも頂きました。将来は製菓の道に進みたいと考えている方、またその想いを持つお子様の保護者の方は是非参考にしてくださいね!

松本 務(まつもと つとむ)様

萌黄(もえぎ)オーナー

神戸国際調理製菓専門学校 製菓衛生師科 2001年卒業

プロフィール

兵庫県出身。明石南高等学校を卒業後、大学、食品メーカー勤務を経て、25歳で神戸国際調理製菓専門学校 製菓衛生師科に入学。2001年卒業後、株式会社エーワンベーカリーに入社(グーテ三宮店配属)。2008年に自身の店「萌黄」を開業し、オーナーとしてパンの製造、販売、経営の全てを担っている。

――松本様、本日はお忙しい中、ありがとうございます。現在、奈良で「萌黄」のオーナーとしてご活躍されていますが、一度社会人を経験されてから専門学校へ入学されたとのこと。どのような経緯でパンの世界を志されたのでしょうか?

松本: ありがとうございます。

実は、パンの世界を意識したのは、小学生のころの「納得いかない味」が原点なんです。

当時食べたパンがどうにも納得できなくて、「自分で本当に美味しいパンを作ってやろう」と思ったのが始まりでした。ただ、その思いがすぐに職業に結びついたわけではありません。高校を卒業して大学に進学し、その後は食品メーカーで働いていました。

人生の転機となったのは、その食品メーカーでの人間関係のトラブルでした。色々な人に相談する中で、ふと小学生の時の「自分で美味しいパンを作りたい」という気持ちが鮮明によみがえってきたんです。当時、自分としては崖っぷちに立たされている感覚もありました。「もう、ここで人生を懸けて勝負してみよう」と。それが25歳の時でした。

――25歳でキャリアチェンジを決断されるのは、相当な覚悟が必要だったかと思います。専門学校選びの決め手は何だったのでしょうか?

松本: きっかけはハローワークの方の勧めでした。社会人からの専門学校入学は、正直とても不安でした。でも、もう「頑張るしかない」という気持ちが強かったですし、何より「この学校なら大丈夫だ」という直観が大きかったですね。

基礎技術が、試行錯誤の土台となる

――専門学校での学びで、今、最も役に立っていると感じることは何でしょうか?

松本: 何と言っても「基礎技術」をしっかりと教えてくれたことです。新しいパンを考える時や、何かうまくいかないことがあった時は、必ず私は「原点回帰」するようにしています。その時に専門学校時代にいただいたレシピを見返して、基本の配合や工程を確認するんです。

就職してからの修行時代、お店ではまず**先輩が作るパンの「マネ」**から入らなければなりません。会社のやり方や方針に従って、言われた通りに作る必要があります。その時に基礎ができていなかったら、正確にマネをすることすらできないんですよ。

――プロの世界でのスタートラインに立つために、専門学校で培うべきことは「基礎」だと。

松本: まさにその通りです。今、専門学校に在籍している学生の皆さんには、基礎は専門学校にいる間にぜひ反復して、体で覚えるようにしてもらいたいです。基礎ができていれば、その後の応用や、私のように独立後のトライアンドエラーの土台になってくれます。

20年以上のキャリアと、「萌黄」の流儀

――卒業後、株式会社エーワンベーカリーでの修行を経て、2008年に「萌黄」を開業されました。現在の「オーナー」としての業務内容と、松本様が特に注力されている点を教えてください。

松本: 現在は、パンの製造と販売、そしてオーナーとして店の経営、つまり「萌黄」に関わる全ての業務を担当しています。その中で私が最も大切にしているのが、「自分が美味しいと思ったものしか作らない」という主義です。

そして、その「美味しい」の基準を、ここに住む方々の価値観に合わせていくことに注力しています。

――地域の方々の価値観に合わせていく、というのは具体的にどういうことでしょうか?

松本: 日本人はお米を主食としてきた文化があるので、基本的に柔らかいパンが好まれると思うんです。だから私は、大阪や神戸のような都市に多いハード系のパンは作らない。むしろ、もっともっと柔らかいパンの技術を深めていきたいと考えています。

これは、難しい専門用語を使わず、私たちにもわかる言葉で政治の解説をしている人に耳を傾けるのと同じだと思うんです。自分の商品も、この地域の方々が見慣れた食材、地元のスーパーに売られているような食材を使った方が、確実に売れます。

実は、開店当初は修行先で教わった都会的なパンも並べていたんですが、全く売れませんでした。トライアンドエラーを繰り返し行いながら、お客様の反応を見て今のスタイルが確立できた。これはオーナーとして非常に嬉しいことですし、この試行錯誤こそが私のキャリアの核です。

――ご自身の「納得」と「地域性」を見事に融合させた結果ですね。今後の夢や目標についても教えていただけますか?

松本: やはり、この柔らかいパンの技術をさらに極めていくことです。そして、この「萌黄」という店を通じて、地域の方々の日常に寄り添い、笑顔を届けていきたい。この思いは、この道に入って20年以上、ずっと変わりません。

若者へのメッセージ:成功のスイッチは「目標となる人物」と「パンが好き」という気持ち

――松本様は20年以上にわたり、このパンの世界でご活躍されています。これから業界を目指す若者や、今専門学校で学んでいる学生に向けて、「この業界で働く上で大切なこと」や「成功をするポイント」を挙げるとすれば、何でしょうか?

松本: 成功のポイントは、二つあると思います。

1. 目標となる人物を見つけること

私でも時々モチベーションが下がることがあります。そんな時は、いつも飲食店を経営している方のインタビュー動画や、尊敬するパティシエ、パン職人の方々の動画を見ることが多いんです。

「この方はこんなことで成功しているんだ」「こんな工夫をして集客しているんだ」と学びます。そうすることで、自然と「やる気スイッチ」が入るんですね。学生の皆さんも、異業種でも構いませんから、目標となる人物を見つけて、その方の考え方や成功体験に触れてみてはいかがでしょうか。

2. パンが好きという気持ち

これは基本中の基本ですが、何より「パンが好き」という気持ちが大切です。

何か辛いこと、大変なことがあった時も、「美味しいパンを作りたい、そしてお客様を笑顔にしたい」という強い気持ちがあれば、私の場合はたいていの場合は乗り越えることができました。情熱は、技術や知識と同じくらい、いやそれ以上に強力な原動力になります。

専門学校で磨く「販売のスキル」

――最後に、専門学校での学びが現場で役に立った具体的な「技術以外」の部分があれば教えてください。また、学生へのアドバイスをお願いします。

松本: 技術以外の部分で言うと、学生の皆さんにお伝えしたいのは、『販売のスキル』も極めて重要だということです。これは美味しいパンを作る技術と同じくらい大切です。

いくら美味しいパンを作っていても、店先で販売スタッフの方がずっと暇そうにスマホをいじっていたり、スタッフ同士でお喋りをしていたら、お客様は「入りたい」とは思わないですよね。

私だったら、挨拶していたり、呼び込みをしている活気がある店に入りたいです。

今、専門学校でも販売実習のようなものが充実していると聞きます。学生の皆さんは、今「お客様の立場である気持ち」を、職人になっても忘れないようにしていただきたいです。技術を磨くことと同時に、お客様を惹きつける『店の顔』を作る力も身につけてください。それが、プロとして長く成功し続けるための鍵になるはずです。

――松本様、熱いメッセージと貴重なお話をありがとうございました!神戸国際調理製菓専門学校の製菓スペシャリスト本科では実際お店を想定したカフェ実習が開講されています。ケーキ販売だけではなく、接客は販売などの実践を通じて、総合力を養います。一般向けに販売をしておりますのでぜひお越しください

編集後記

「崖っぷち」からの再スタート。松本務様のキャリアは、一度社会に出てから専門の道を目指す方々にとって、非常に大きな勇気を与えてくれるものです。特に印象的だったのは、「この土地、この地域のお客様の価値観に合わせる」という柔軟な姿勢です。

「自分が修行したところのパンも、開店当時は売れなかった」という正直な告白は、プロの厳しさと、地域に根差すことの重要性を物語っています。

松本様の成功は、単に高い技術力だけでなく、常に市場とお客様の声に耳を傾け、「トライアンドエラーを繰り返しながら今のスタイルが確立できた」という、絶え間ない探求心の賜物でしょう。

目標とする人物から学び、基本に立ち返り、そして何より「パンが好き」という情熱を原動力にする。

これは、夢を追いかける全ての人に通じる成功の法則です。神戸国際調理製菓専門学校で学んだ「基礎」と「人間力」を土台に、地域に愛されるパンを作り続ける松本様の「萌黄」が、今後もさらに発展していくことを心より願っております。